07


結局昨日、來希は部屋に帰ってこなかったみたいだ。

俺は髪を再び黒いスプレーで染め、コンタクトをつける。制服も窮屈だったがちゃんと着て、最後に眼鏡を掛けて優等生の出来上がり〜。

朝食は冷蔵庫にあった食材でパパッと簡単に作り、俺は入学式が行われる第一体育館に向かった。

寮を出れば俺と同じ、臙脂(エンジ)色のネクタイを締めた新入生のグループがちらほらと、第一体育館に向かっていたから迷うことはなかった。

体育館の入り口で名前とクラスを名乗って胸に付ける小さな花を貰う。

俺は1-Aだから、体育館を入って右側か。

時間まで後少しあるな…。

俺は一つ欠伸を溢して壁に寄り掛かった。

「ねぇ、アレが今年の外部生?」

「そう。しかも來希様と同室とか。生意気じゃない?」

「知ってる?昨日、食堂で本庄様とも一緒にいたらしいよ」

「なにそれっ!!許せないっ」

ヒソヒソとそこかしこから俺への悪口、視線が向けられるのを感じた。

あぁ、うざったい。

昨日の食堂の時と同じだ。

俺は周りの視線と声を無視して早く始まらねぇかな、とポケットから携帯を取り出した。

あ、そっか。ここに来る前に使っていた携帯は取り上げられて、廃棄されたんだった。

つい癖で携帯を開いてメールを作成しようとしたがアドレス帳に仲間の連絡先が一件も入っていない事を思い出し、俺は諦めて携帯をしまった。








暫く嫌な視線を一身に受けていたが、入学式が始まるとそれも無くなった。

そして何故か皆大人しく黙りこみ、ステージを熱心に見つめていた。

ワケわかんねぇし。有名人でも出てくんのか?

そういったことにまったく興味のない俺は、自分が優等生の格好をしていることも忘れコックリ、コックリ、と船を漕ぎ始めた。

「………からの挨拶です」

「「「キャ――――!!!」」」

うわっ、何だぁ!?

気色悪い叫び声に、夢の中から一気に覚醒させられた俺は何事かと周りを見回す。

さっきまで静かだったのにこの煩さは何だっ。

すると、どいつもこいつもステージに熱視線を向けていることに気づいた。

『…うるせぇ、静かにしろ』

視線を辿ってステージに視線をやれば、そこにはマイク片手に不機嫌そうに眉間に皺を寄せた、見覚えのありすぎる男が立っていた。

「は?」

何でてめぇがそこに立ってんだよ?

俺の疑問は、気色悪い声を上げる人々によって直ぐ様解決された。

「いや〜、格好良い〜v遊志様〜!!」

「抱いて〜v」

「好きです、会長〜!!!」

会長?アイツが?はは、ありえねぇだろ。だって不良だぜ?

ん?…てか、抱いてって何だよ?

『うるせぇって言ってんだろ。黙れ』

マイクを通した低い声が体育館内に響く。

二度目の脅しでそれまで騒いでいた生徒達もシンと静まり返った。

「アイツが会長とか絶対ぇ間違ってんだろ…」

俺の小さな呟きは誰に聞かれることも無く消えていった。



[ 9 ]

[*prev] [next#]
[top]



- ナノ -